電気新聞2022年3月7日号 1面 3面にインタビュー記事が配信されました

◎電気新聞 2022年3月7日号 1面

電力価格の安定目指す 余力集めて実現、スタートアップが取引をスタート

乱高下する電力価格の長期安定を目指し、エネルギー取引のプロが設立したスタートアップ「エナジーグリッド」(東京都中央区、城崎洋平社長)が始動した。事業会社や個人投資家から計約20億円を調達。大手電力などから電力を買い取り、数量を増やせる付加価値(オプション)をつけて新電力に販売するビジネスを始めた。今後も現物や先物、オプションといった取引手法を駆使し、発電、小売事業者双方の価格変動リスクを減らす解決策を提供する。

エナジーグリッドは昨年7月に設立。電力や金融などで培った豊富な実務経験や人脈を生かし、大手電力、商社、新電力など10~20社と取引を始めた。

目指すは価格変動の激しい市場の安定化。大手電力の発電余力や新電力の買電余力など、各事業者が持つ価格・数量の変動部分(オプショナリティー)に着目。それを買い集めてリスク管理を一手に引き受けることで、目標を実現する道筋を描く。

 

◎電気新聞 2022年3月7日号 3面

エナジーグリッドが始動 価格リスク一手に管理

◆20億円調達、事業を本格化

発電、小売事業者は価格変動リスクにさらされている。燃料高や電源の休廃止によって高負荷期の価格が高騰する一方、太陽光の導入拡大を背景に低負荷期の価格低迷も目立つ。それでも発電事業者は価格上昇時、小売事業者は下落時に利益が出るため、リスクは放置されがちだった。

特に中小新電力が抱える課題は深刻だ。ベース供給力の確保すらままならずスポット調達に依存し、昨冬の価格高騰で大きな打撃を受けた。この状況が続けば破綻の連鎖が起こる。エナジーグリッドの城崎洋平社長は、「様々なプレーヤーが競い合う自由化の良さが失われてしまう」と述べ、リスクヘッジの重要性を指摘する。

ただ、個社ごとに大手電力と交渉しようにも取引規模や信用リスクが障壁となる。必要なのは取引の仲介役。エナジーグリッドが買い手のニーズを集約して売り手と交渉することで課題を克服する。

相対取引は前払いが基本のため、同社は約20億円をプライベートデッド(未公開企業融資)で調達した。電力価格の長期安定化を目指す志に賛同し、事業会社2~3社と個人投資家数人が応じた。

現在は、大手電力から買い取った電力に、買い手が数量を増やせる付加価値(オプション)をつけ、長期固定価格で新電力に販売している。大手電力にとってはオプションプレミアムを得られる利点がある。

今後は新電力からも、売り手が数量を増やせるオプションの提供を受ける予定だ。ほかにも契約期間を複数年にするなど、売り手のリスク軽減につながる条件と引き換えに、値引きを引き出す。

同社の戦略について城崎社長はこう話す。「売り手と買い手双方から価格・数量の変動部分(オプショナリティー)を適切な価値で買い取り、変動リスクを全て当社で引き受けて管理する。価格上昇時は売り、下落時は買うことで市場の流動性を高め、価格安定化につなげたい」

こうしたビジネスを展開するため、昨年12月に小売ライセンスを取得。1月から欧州エネルギー取引所(EEX)と東京商品取引所、2月からは日本卸電力取引所(JEPX)で取引を始めた。

強みはノウハウと人脈。城崎社長は東北電力出身で、エンロンやモルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスなどで大規模なエネルギー取引を手掛けた。藤原岳彦副社長もエンロンや住友商事などで豊富な実務経験を積んだ。来年度中に50社以上との取引を目指し、精力的に動く。