時事通信社webサイト(記者・小代田淳一)にインタビュー記事が配信されました

◎〔インタビュー〕先物使い電力会社を支援=エナジーグリッド・城崎社長

電力卸売業のエナジーグリッド(東京)は2021年7月に設立され、大手電力から電力を調達し、新電力に売却する事業を始めた。城崎洋平社長は時事通信社のインタビューに応じ、エナジーグリッドの事業について「電力会社は長期にわたって安定的に電気を供給し、収益を上げるのが使命であり、その支援をするのがベースだ」と強調。今年1月からは、日本取引所グループ(JPX)傘下の東京商品取引所と欧州エネルギー取引所(EEX)の電力先物取引も開始し、「これらを複合的に使いながら、効率的にリスクマネジメントするのは必須だ」と語った。

―城崎社長の経歴は。

大学卒業後の1999年に東北電力に入社したが、日本に進出してきた米総合エネルギー企業エンロンでチャレンジしたいと考え、2000年に飛び込んだ。同社が経営破綻した後は金融業界に移り、野村証券で金利、為替のデリバティブ取引に従事した。そこでの知見を生かし、エネルギー分野でデリバティブを活用した効率的なリスクマネジメントを手掛けたいと考えるようになり、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスで電力・ガス会社に燃料の長期のヘッジを提供するなどした。

―なぜエナジーグリッドを設立したのか。

ゴールドマン・サックスを辞めた後の21年1月、日本卸電力取引所(JEPX)1日前(スポット)市場の高騰を見た。エンロンで一緒に勤務し、その後はドイツ銀行、三井物産、住友商事で一貫して電力関係のマーケットに携わってきた藤原岳彦氏(現エナジーグリッド副社長)と議論。その中で、スポット市場の新電力、発電事業者、商社といった各プレーヤーを顧客とし、それぞれの課題をリスクマネジメントによって解決するのを積み重ねることで、マーケット全体のボラティリティー(変動率)も抑えられるのではないかと思った。そこで昨年7月に会社をつくった。

―何をするのか。

電力会社は長期にわたって安定的に電気を供給し、収益を上げるのが使命であり、その支援をするのがベースだ。電力の需要家であれば10~20年、発電事業者でも2~3年といった長期間の価格を固定化したいニーズがある。そのためのヘッジをするのと、ヘッジできるマーケットをつくる両建てで進めないといけない。

具体的には、新電力、発電事業者、大手電力など顧客の相談に応じ、どのようなリスクヘッジやマネジメントをしていけばいいか解決策を提示する。そのために、われわれがポジションを取って取引し、顧客の価格変動リスクを低減する。究極的には、さまざまな顧客が持つ価格の変動要素をわれわれが買い、相場が上がれば売り、下がれば買っていけば、マーケット全体の変動幅も縮小できる。さらに、10~20年といった先物にもない長い期間の価格固定化のニーズも取り込み、そのヘッジのための取引ができるマーケットを実現したい。

―現在の事業は。

国内大手電力や商社から相対取引で10~50メガワット規模の電力を調達し、それを0.1~5メガワット程度に小分けして、新電力に売却する卸売業を手掛けている。ただ売るだけではなく、そこにオプション取引をする条項を入れ、新電力の調達コストを下げることや、新電力が販売する商品の提案などもしている。この事業に関連し、JEPXスポット市場での現物取引のほか、今年1月からは東商取とEEXでの電力先物取引を開始した。これらを複合的に使いながら、効率的にリスクマネジメントするのは必須だ。

―日本の電力先物市場をどうみるか。

EEXは欧州プレーヤーを中心に流動性が非常にあり、さまざまな視点でトレードしているプレーヤーがいる。ある程度、燃料価格の変動などに応じて相場が動くので、ヘッジしやすいところはある。取引単位が大きく、大規模の取引ができる利点もある。

東商取は成約しづらいのが難点だ。日本のプレーヤーが主体で、どうしても足元のスポット価格の水準に左右されやすく、燃料との相関を考慮した取引もなかなかされていない。取引単位が小さいのも、成約に至りにくい一因ではないか。

―日本の電力先物取引の課題は。

証拠金が膨大だ。東商取での取引の場合は、SPANの計算システムを使い、過去のボラティリティーを基に機械的に計算するので、他の先物市場と比較しても過大になってしまう。また、EEXと東商取の取引でそれぞれ別々の証拠金が必要になり、相殺できないので、ダブルで積み上がってしまう。新電力などがそのための資金調達をするのは厳しく、参加に対する障壁になっている。

EEX、東商取とも現物市場より活用しやすく、非常に有益で、積極的に使っているが、証拠金が高く、流動性が低いという意味で、他の先物市場に比べて使い勝手が悪いのは事実だ。証拠金などの問題が解決されれば、取引参加者も爆発的に広がり、マーケットにとってプラスになると考えている。

―先物取引の経験のない日本企業が電力先物取引を始めるにはどうしたらいいか。

手っ取り早いのは、外部でエネルギー関連商品の先物取引の経験がある人を雇うことだろう。エネルギーの先物市場は、原油やガス、そして電力も、ベースは一緒だ。ただ、電力は貯蔵できないのに需給の影響が大きく、価格のボラティリティーも桁違いに大きいといったことから、一番難しいというのは共通認識になっている。

社内に経験者がいなくても、例えば大手電力などは人材が優秀なので、取引の体制を整えることは可能だ。トレーディングは経験しないと分からないので、積極的にトライしてもらいたい。もし分からないことがあれば、ぜひ当社に相談してほしい。長年のキャリアを持つエキスパートが、コンサルティングを行うだけではなく、現場レベルにまで落とし込んだリスクマネジメントを支援できる。(了)